自分の死後に,子どもたちなどの相続人に争いが起きないように遺言書を書いた方が良い。
よく,このようなことが言われます。
特に少し前から信託銀行が,遺言信託という業務を始めており,遺言書を作成しないことが,非常識なことのように感じられる広告すら見かけます。
また私たち弁護士もどちらかというと遺言書の作成をお勧めする立場なのかもしれません。
しかし,実際のところ遺言書の有無と紛争の有無はあまり関係がないように思います。
遺言書がないと相続財産は法定相続分に従って分割されます。
相続財産がすべて預金などの数量的な分割が可能なものであれば問題はありませんが,相続人の一部が居住している不動産がある場合などは,遺産の分割協議という手続が必要になり,協議が調わなければ,家庭裁判所で調停や審判の手続を行うことになります。
確かに,遺言書を作成することで,このような紛争を防ぐことができる場合もあります。
しかし,先ほどの不動産が,相続財産の大部分を占めるような場合はどうでしょうか?
おそらく遺言書では,居住している相続人に相続させるように指定されるでしょうが,他の相続人が納得しない場合もあるでしょうし,その指定が遺留分を侵害してしまう場合も考えられます。
そうすると,このような場合に紛争になるかどうかは,遺言書を作成する人と相続人との関係や相続人同士の人間関係による部分が大きいのではないでしょうか。
それぞれの人間関係が良好であれば,遺言書がなく,遺産分割協議を行う場合でも円満に解決する場合が多いでしょうし,人間関係に問題があると,有効な遺言書があっても紛争にならないとは断言できません。
ちなみに信託銀行の遺言信託はかなりの手数料が必要です(ホームページ等で見れます)が,相続人間で紛争が生じたときは,ノータッチということになっています。