前回,症状固定という言葉を説明するときに治療を続けても怪我が完全に治らない場合のことであると説明しました。
そのような状態のことを後遺障害と言います。
一般的には後遺症という言い方のほうがなじみがあると思いますが,単純に症状が現れるという点よりもその症状によって現実的に引き起こされる障害を重視した表現だと考えられます。
前回,説明しましたように体の一部を切断したような場合,どうしても消せない傷跡が残る場合,腕や足の動きが悪くなってしまうような場合などが理解しやすい例です。
このように後遺障害というものは,良くならないということが前提なのですが,神経症状といわれるもののうち,いわゆるむち打ち症については,少し扱いが違います。
むち打ち症に適用される後遺障害等級14級9号の「局部に神経症状を残すもの」と12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」については,労働能力喪失率がそれぞれ5%と14%とされていますが,むち打ち症については労働能力喪失期間はそれぞれ2年から5年及び,5年から10年が一応の目安とされ,通常の67歳までとは違う扱いになっています。
これは,むち打ち症は後遺障害に該当しても,長期間の内には症状が改善する場合が多いという考えに基づいています。
そうであれば,症状固定ではなく,後遺障害にも該当しないのではないか?という疑問もありますが,多発性骨折などの重症事故でもないのに症状固定まで数年以上を要し,その間も8割から9割くらいは事故前と同様に働けるという状況を認めると,休業損害や慰謝料の計算が難しくなるうえ,解決に時間がかかってしまいます。そのため,このような扱いになっていると考えられます。
むち打ち症の扱いについては,12級になるか14級になるかでかなり賠償額に違いがあり,実務では等級の認定が問題になります。
ごく大雑把に言えば,レントゲンやCT,MRIなどに症状の原因が写っている場合は12級が認められやすく,症状として不合理ではないがそのような画像所見がない場合は14級になる場合が多いです。